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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)299号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松岡良俊の上告理由第一点について。

原審は、訴外山口茂はその代理権が消滅したにかかわらず、なお、その存続を装い、被上告会社との間に、上告人の代理人と称して、従前の代理権の範囲を超え、本件石炭の売買契約を締結したものであつて、しかも該契約締結の衝に当つた被上告会社の代表取締役たる山田秀夫は、山口の代理権の消滅につき善意無過失であり、かつ山口に上告人の代理人として右契約を締結するにつきその権限があると信ずベき正当の理由を有していたものと認める旨判示したのであつて、本件は民法一一〇条、一一二条の競合する場合に該当するものであること判文上明らかである。そして代理権の消滅後従前の代理人がなお代理人と称して従前の代理権の範囲に属しない行為をなした場合に、右代理権の消滅につき善意無過失の相手方において、自称代理人の行為につきその権限があると信ずベき正当の理由を有するときは、当該の代理人と相手方との間になした行為につき、本人をしてその責に任ぜしめるのを相当とするから、論旨は理由がない(なお、論旨引用の判例は、本件に適切でない)。

同第二点について。

原審が本件契約締結の衡に当つた被上告会社の代表取締役山田は反証のない限り山口の代理権の消滅につき善意無過失であつたものと認めるべきであると判示したのは正当であつて、所論の事実があるからといつて、被上告人に右推定を覆し、過失ありとするにはいまだ足りないから論旨は採用することを得ない。

同第三点について。

原判決はその認定の諸般の事情に徴するときは山口に上告人の代理人として本件契約を締結するにつき、その権限ありと信ずべき正当の理由かあつたものと認めるを相当とする旨判示したものであつて、右事情は被上告人において山口が代理権を有するものと信ずるにつき、正当の理由があつたものとなすに十分である。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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